INTERVIEW

豊島監督インタビュー

―本作の監督を引き受けた理由を教えてください。
「プロデューサーの越川(道夫)さんに声をかけられたのがきっかけでした。越川さんには“まりという女性が地元で店を作る話。そんな人たちを応援するような映画にしたい”と言われて。その言葉を聞いて、まりがかき氷屋を作り、営む姿を約90分かけて追ってみようと思ったんです。よしもとばななさんは原作に、“田舎に帰って店を作るのは、キレイゴトではすまない”というようなことを書かれていましたが、そこをちゃんと描いてみようと思った。“キレイゴトではない現実の部分”を描くのが、今回のテーマのひとつになりました」
―実際に現場で演出される際には、どんなことを心がけましたか?
「今までのよしもとばななさん原作の映画の中で、僕が一番好きなのは『つぐみ』(1990)です。なぜなら、主演の牧瀬里穂さんと中嶋朋子さんが死ぬほど可愛いかったから(笑)。だからどうやって、今回の映画でまりを演じる菊池さん、はじめを演じる三根(梓)さんを魅力的に映るかを考えました。具体的には、多くの場面で彼女たちに肉体的な負荷をかけるようにして。例えば、かき氷屋の開店準備をするまりに重いものを運んでもらったり、はじめには海岸の岩場を跳ねながら話してもらったり。何らかのアクションの中で演じてもらうとより自然になり、感情も溢れ出るものなんです。映画を観た後に菊池さんが“裸の自分が映っている気がして恥ずかしい”と言っていたんですが、それを聞いてよかったなと。生っぽい姿を映せたかなと思います」
―まり役の菊地亜希子さんは、どんな女優だと感じましたか?
「菊池さんはどちらかというと器用なタイプだと思いますが、現場では“生っぽく演じよう”としてくれました。印象深いのが、まりの幼馴染みで元恋人のオサム(小林ユウキチ)と衝突した後に泣く場面。あんなに号泣するとは思っていなかったんですよ。顔をぐしゃぐしゃにして泣いているのを見た瞬間、“ああ、まりってこんなに無理していたんだ”と。まりも好き勝手やっているように見えて、自分の安易さに気づいていたんですよね。そんな彼女が現実に負けたオサムを目の当たりにし、自分の安易さに改めて向き合い、崩れたんだと。あの場面がなかったら、この映画は成立しなかっただろうと思います。監督として最も感動するのは、俳優にその役のことを教えてもらう瞬間。幸せな瞬間でしたね」
―三根さんはいかがですか? 身体にも心にも傷を負ったはじめという難しい役柄に挑戦しています。
「三根さんは菊池さんとは反対で不器用なところがあるんですが、どこか獰猛な感じが見え隠れして、面白かったですね。この獰猛な感じをちゃんと映せれば“映画ならではのはじめ”になるのではないかと。つまり、不思議なだけではない、生っぽさが出るのではないかと思っていました」
―まりとはじめというふたりの女性の関係性はどう捉えていたのでしょう。
「友情ともつかない、不思議な関係ですよね。原作ではふたりは同じぐらいの存在感がありますが、今回の映画は“まりがはじめを見る物語”にしようと。大事にしたのはここも現実感です。はじめという女の子は、時折不思議なことを言うんですが、そんな時のまりは割と流すんですよね。でも、はじめが不意に号泣するような場面、つまり、はじめのリアルな感情に触れた時にはちゃんと寄り添い、距離を近付けていくんです。このふたりは、オサムも恐らく、最初から先の道を決めていたんだと思います。そんな3人が一瞬この町で交わり、それぞれの場所へと動き出した。そういう時間を描いたのかもしれません」
―その3人が交わった西伊豆の土肥ですが、ここで撮影することは初めから決めていたんですか?
「はい。よしもとさんの定宿が土肥にあると聞いた時から、ここで撮ろうと思っていました。光の差し加減や波の音など、そういう部分には今回こだわりましたね。光や音で海を感じさせたかったというか。というのも、今回の映画でインドア派の僕もつくづく海の力を感じたんです。タイトル明けの“まりが海に飛び込む場面”を撮影中、海に浮いている菊池さんを見て不意に感動し、ぼろぼろ涙がこぼれました。世の中には確かに“大きいもの”があるんだなと。実はこの場面は脚本上は、中盤にあったんですが、急遽冒頭に持ってきたんです。最初に海の力を実体験できたことは、映画全体にいい影響を与えたと思いますね」
―海の力の他に、まりが作るかき氷を通じて“食の力”も感じる映画です。
「ふわふわの氷にスプーンを差し込み、シャリッと音を立てる時、一瞬ではあるけれど、確かに幸せになるんですよ。監修の『埜庵』石附(浩太郎)さんに一つひとつ教えてもらいながら、おいしそうなかき氷を映すことができたと思います。そして、かき氷は“現実と折り合う”まりの象徴にもなったのかなと。糖蜜とみかん氷という、自分が好きなかき氷だけを出していたまりが、やがては定番のイチゴ氷を作る。理想は現実に負けたけれど、負けっ放しではない。負けて一歩進んで“大人になった”んだと。イチゴ氷で、そんなことが伝わればなぁと思います」

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